いがらしみきお「sink」を読んだ後の私的なメモ

 「ぼのぼの」の作者によるかなりの力作。あえて「ぼのぼの」を強調したいんですが、そのイメージで見ると、ジャンルとしてはホラーに位置づけられる作品のはずなのに「ああ、これってぼのぼのっぽいなあ」って思えてきます。そう考えると「ぼのぼの」がおそろしく感じられたり・・・w
 世界は、本来ならば「不安」及び「不幸」が不自然に疎外されていないわけで、本当は私たち(論理)と共存しているはず。主人公(?)の息子「駿」が居場所を求めて異界(不条理)と触れ合うってのはモロに寓話的です。
 でも、ホントの世界ってのが逆襲(?)を果たし、不幸と背中合わせの日常を描いたラストは、やっぱりハッピーエンドだったのかなって思います。現実には、不幸そのものがいくらでも消去可能だってことがばれちゃってるわけで、「論理」は強すぎます。不条理はどんどん駆逐されていきます。
 例えば、医療ミスというのは人為的なミスです。人為的なミスというのは人間が起こすうっかりミスのことで、責任の所在が明らかです。しかし、うっかりミスは確率の高低の差こそあれ、必ず存在します。医学がここまで進歩している現在、神の気まぐれで先天的な病を持つことと、人為的な医療ミスに出くわすことは同義といってもいいかもしれません。しかし後者には「被害」という概念が存在し、「論理」的に「悪いやつ」を言い当てることが可能です。怒りのぶつけどころがあります。
 このラストで、いがらし氏の不条理への強い信頼感を感じてしまったんですが(ぼのぼのも、もしかしたら不条理ギャグに入るのかもしれない)、シガテラの出口のない絶望を知ってから読むと、「そうだったらまだ幸せなんだよなあ」と思ってしまうから、さらに恐ろしいですw