ラブコメ反対死ね死ね団が「愛してる」と話すまで 〜団員から見た稲中→シガテラ〜

 僕は「素の部分」を見せることを嫌います。何かに本気で取り組むことは怖いです。本気の部分で勝負して失敗したら、すんごく痛いです。まあたとえば完璧でカッコイイ人が、人前でコケただけで笑われるってのとおんなじですね。だから、本気じゃない部分でそれなりにやっていくわけで、その照れ隠しが人を笑わせる側に立つことの原因にもなってるんだと思います。

 照れ隠しというのをもう少し説明しましょう。本気の部分で勝負をしても痛い目にあわないための方法が、二通りあります。ふたつとも単純な話なんですが、ひとつは勝負に失敗しない、というもの。完璧な自分としてスキを見せないっていう方法です。そしてもうひとつは、はなから本気で勝負しない、というもの。最初からスキだらけのカッコ悪いキャラであれば、失敗しても他人や自分にエクスキューズが効くわけです。僕といっしょのすぐ夫とイトキンの対立ですね。この、一見対照的に見える二つの特徴ですが、実は同居しています。本気で勝負し、失敗してカッコ悪い思いをしたくないからこそ、人前ではスキだらけのカッコでやっているんです。スキは見せても本心までは白日の下に晒したりしません。恥ずかしい部分を隠すために、自分の本気じゃない部分の失敗だけを見せる、という高等テクです。

 人に笑われるのが怖いから、先に自分から望んで笑われるキャラになっておく。そうすればとっても恥ずかしい思いはしないで済む(稲中で、前野はすぐハダカになりますが、みんなの前でオナニーすることはできません 笑)、と。しかし、やっぱりどっかで「本当の自分」をわかってもらいたい、という幻想を抱えてしまうのが死ね死ね団の哀しいサガです。「本当の、カッコ悪くて・弱くて・恥ずかしい自分」を見せて、それを受け入れてくれる人を待ち望んでしまいます。ですが、死ね死ね団は思います。それはホントに難しい。そしてそもそもそんなこと実現可能なのか、と。
 実現可能なの?っていう自分の感覚があるだけに、みんなだってホントは本当の自分を理解してもらったことなんてないんじゃないの?そうして分かり合ってるフリしてるだけじゃない?と、世の中に溢れまくっている色んな言葉に「疑いのツッコミ」をいれ始めます。世の中には、愛だの恋だの人生だのと、それっぽい言葉を使えば「本当のこと」を言ってる気分になってる輩が多すぎます。上っ面だけで組み合わせた言い回しが、あまりにも溢れすぎています。だから、なんにもわかってないクセにわかったフリして語っちゃってる奴らを笑い飛ばします。怒りにも似た笑いのエネルギーは「死ね死ね団」を生み、テキトーに重みのなくなった言葉を振り回してイイ気分になってる奴らに、怒りの鉄槌を下すのです。

 世直し的な組織である死ね死ね団は、実は過激派組織です。本来の理念を推し進めて、やがては極端な行動に走ってしまう、過激派ならではの特徴を備えています。本来ならば、ラブコメで描かれるウソ臭い言葉の数々を否定した結果、ラブコメ反対を掲げるというのが筋でしょう。しかし実際には、恋愛そのものにまで怒りの矛先を向けるような行動をとります。それが過激派ならではの暴走です(ヒミズの住田は最後まで過激派だったと思います。まあヒミズの話は後ほど)。そこまで暴走するにも関わらず、僕ら団員は恋愛というものに関して人一倍期待を寄せています。理由は、彼らは心の底ではいつも自分の理解者を求めている、孤独な人種だからです。

 そんな死ね死ね団が実際に恋愛に関わり、感動し、それを伝えたいと思ったら、どうしたってクサくてバカバカしい台詞を言うわけにはいきません。それは意地というのも多少はありますが、それよりも根本的な話として、僕らは世の中に溢れかえる上っ面だけの言い回しを全然信用していないから、そういう言葉を使うのは嘘をつくような気がするのです。それでもその言葉を使わなければ意味が伝わりにくいとき、頬を赤らめたり、言い訳がましく注釈をつけてから話します。

「愛」という言葉しかないので愛してるとしか言えないが・・・・
 もっと強烈な言葉が生まれるのを待ち望んでるほど好きだ・・・・
古谷実シガテラ」6巻)

 実は僕も、彼女にこれと似たような台詞を言ったことを覚えています。「ぼくが感じている気持ちは、愛してるなんて言葉じゃカバーしきれません」なんて、かなり恥ずかしいですが、まあ実際恥ずかしがりながら言いました。とにかくそれは置いといて。

 ありふれてしまって、いまや信憑性がなくなってしまった言葉を、どうやったらよみがえらせることができるか。それが僕ら元死ね死ね団員としての誠意なわけです。それは自分自身が本気で感じたことを、他の三流ドラマの安っぽい台詞と区別する線引きでもあると思います。
 この文章に何かしら得るところがありましたら、クリックをお願いします。→人気blogランキングへ

行け!稲中卓球部 (1)
行け!稲中卓球部 (1)
posted with amazlet on 06.05.19
古谷 実
講談社 (1993/11)
売り上げランキング: 34,364
僕といっしょ (3)
僕といっしょ (3)
posted with amazlet on 06.05.19
古谷 実
講談社 (1998/08)
売り上げランキング: 86,267
シガテラ (6)
シガテラ (6)
posted with amazlet on 06.05.19
古谷 実
講談社 (2005/08/05)
売り上げランキング: 1,391