新連載「わにとかげぎす」

 今週のヤンマガに予告がありました。「世間から置いてけぼりくらった人たちが、なんとか人並みになろうと勝負するお話」とのこと。短編orマルチスレッド形式なのかな?とにかく、初回に出てくるのは、無味乾燥な毎日を送る32歳・独身の警備員だそうな。なんとなくヒミズを連想させるような文句が並んでいますが、彼はグリーンヒルの「リーダー」に通じうる気配のおっさんです。
 稲中からずっと古谷実が描き続けてきた「普通/特別」の互いへの憧憬は、最近2作ではどのように描かれていたでしょうか?ざざっとおさらいします。
 ヒミズの主人公住田は、特別な人間に憧れることなく、毎日をひっそりと普通に暮らそうとする中学生でした(しかしここが大事なんですが、「特別に憧れない」というのは死ね死ね団特有のひねくれた姿勢でして、本当は特別な人間に憧れているのも事実なわけです)。彼は、徐々に普通でなくなっていく自分の状況に戸惑います。こんなの「ありきたりの不幸話」で、まだまだ自分は普通なのだ、という気持ちと、「死に神と目が合った」自分はやはり特別なのだ、という気持ちが混ざり合い、迷いながらとりあえず「悪いやつ」を探します。もし自分が特別ならば、「悪いやつ」が見つかるはずだ、ということでしょう。結局彼は「普通であり続ける」=「悪いやつが見つからない」という希望と、「特別な人間になる」=「悪いやつを見つけて殺す」という、一見相反する希望を、同時に解決した、と僕は見ています。
 住田が「不幸」を特別と捉えるのと同様、シガテラでは主人公荻野くんが「不安」を感じることで、逆説的に「自分は特別な人間なのかも」という期待している様子が描かれます。もちろん、本人は不安に恐れおののいていますが、でも、不安を感じなくなった瞬間から、彼は立派な大人になり、そして何より自分は「つまらないヤツになった」と思います。色んな危険にさらされながらも、結局荻野くんに不幸が訪れないのは、彼が特別などではなく、元々普通の「つまらないヤツ」であったからです。住田が悪いやつを見つけられなかったバージョンです。
 今回の連載に出てくる32歳の男は「世間から置いてけぼりくらった人」だそうです。置いてけぼり、ということは、普通にやっていたはずが、なぜか特別の匂いを放ち始めている、ということなのでしょうか。
 ヒミズシガテラの2作品の主人公の原型は、おそらくグリーンヒルの主人公の関口でしょう。とりあえず普通の大学生で、特別に憧れたり、でもやっぱ普通がいいって思ったり・・・。グリーンヒル3巻には、柵の中にいる飼いならされた羊で彼らを表現します。関口は柵の中で育ち、平々凡々な暮らしをしてきた羊。もう柵のど真ん中もいいところです。しかし、彼のそばにいる、バイクチーム:グリーンヒルのリーダーは、生まれも育ちも柵の外。未だ柵の中に入れないデブ・ヅラ・独身のいじけた中年男性だから、柵の中で平々凡々と暮らす関口の、特別に憧れるそのまなざしがムカつくわけです。今回の主人公の原型は、きっとリーダーでしょう。最初から特別が用意されているところから始まるようです。
 それはもちろん、僕といっしょの始まりを思い出させます。
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