「わにとかげぎす」第6話:運のいい人に捜された運の悪い人

 連休を挟んだため、一週間置いての連載。扉絵がまたすごいです。りんごにひとつ目があって、ほとんどプログレッシブロックのジャケットみたいになってます。
 「男の一生は過酷だ・・・・闘わなけりゃ死人扱い・・・・油断をしたら すぐさま攻撃を受ける・・・・・・・・」「その苦しみの中 安住の地を探すが それは永遠に見つからない・・・・・・・・」今回のおじさんの言葉です。おじさんはこの後富岡ゆうじ君に、男なら勝負に出ろ、とけしかけます。おじさんは彼の300万の貯金を見て話しているわけですが、そういう感情は別にしても、傍から見てゆうじ君の今の状況は逃げ回ってばかりいるように見えます。ゆうじ君にとっては、今の状況は安住の地だと思っていたわけです。闘わないから人様から笑われ、でも孤独であればそんなことでダメージは受けない、と孤独という盾をとって篭城を決め込んでいたわけですが、あるとき孤独という絶対の味方に恐怖するようになってくる。ほかの古谷実作品とつなげて考えると、わにとかげぎすはやっぱりヒミズの続き、あるいは逆バージョンだと思います。ヒミズは、不安の多すぎる状況を恐れ、孤独になりたいと常日頃思っていた少年が、孤独に向かって走り続ける物語ですが、わにとかげぎすは、住田ほど大回りをせず(大真面目に悩まず)、割と簡単に孤独を勝ち取ってしまったために、孤独から逃げ出そうとします。今からでも遅くはないから、きちんと外に出て行こう、と。
 ここで、極端に外に出て戦いまくっているのが、同居している宝くじおじさんです。外に出るというか実際外で暮らしていて、持っているすべての金をつぎ込んで宝くじを買い続ける。もしその宝くじが当たったら、今度は裏カジノで金を増やし続ける。不安から逃れることはできないけど、不安を見えないところに隠すことが、財産の力で可能になるわけです。世間一般から見ればそれは戯言ですが、その夢があるからこそ、彼は不安定な運というものに徹底的に身を任せても、不安から目をそらせるのです。
 夢があるから不安を無視できるおじさんと、夢がないから(ほんとはあるけど)不安を孤独でカバーする富岡君。僕たちは、夢を追い続けることは褒め称えられるべきことと教えられる一方で、堅実に生きることこそ最良という風にも教えられてきました。ほんとに夢がない人には、夢のある人と自分を別種の人間だと区別できます。私は夢がないからとにかく堅実に生きるけど、夢に向かって生きる人はすばらしいと思う、という論理が成り立ちます。しかし、目指したい夢がある人は、正直困ってしまいます。夢を追い続けて宝くじおじさんのようになるか、夢を自ら捨てて堅実に生きるかしかないわけです。でも堅実に生きることの空虚さにまだ慣れない富岡君は、苦しいんです。

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